2014/11/27 売買契約の基本事項(4)
当社ホームページをご覧いただき、誠にありがとうございます。
この記事の執筆日が11月23日ですので、あと1週間で12月(師走)になります。今年もあと1ヶ月ですね。「もういくつ寝るとお正月」というフレーズが頭に浮かびますね。
最近の日の出の時間も6時25分ごろだからなのか、起きるとまだ暗く、思わず時計を見てしまいます。
最近の話題(?)と言えば、「アベノミクス解散」の時に、議員の方々がバンザイのタイミングを間違えていたのには笑いました。
今回の解散の理由はよくわかりかねるのですが、
「消費税10%にする時期を延期する事=(イコール)アベノミクスはどうなのか?」
という批判を避けるための解散、という事でしょうか??
さて、今回は「契約をめぐる紛争」を書いていきますが、前回までの「売買契約の基本事項」と重なる部分もあるので、そちらを参照しながら記載していくようにいたします。
1 目的物件の不存在(原始的不能)
契約がその目的物件が現実に存在することを前提として締結された場合に、目的物件が例えば既に消失してしまっている時は、契約は無効(不成立)である。
⇒土地建物の売買は一般的には特定物の売買であり、契約が有効に成立するためには、目的が可能すなわち目的物件が存在することが必要だからです。
なお、10月9日の記事で記載いたしました、「危険負担」あるいは「債務不履行」(後述)は、契約が有効に成立していることを前提としているものですので、目的物件の不存在のときは問題となり得ません。従って、目的物件の不存在の場合、買主からの契約解除ということもあり得ません。
このように、契約に基づく効果は発生しないが、信義則上の効果として一定の法律関係が発生する場合があります。すなわち、目的物件の不存在(例えば、火災で滅失したこと)を買主が知らず(善意)、かつ、知らないことに過失がなく(無過失)、かつ、売主が目的物件の不存在について知らなかったことに過失がある場合には、売主に一種の損害賠償責任が生じます。
これは、「契約締結上の過失」と称され、民法に明文の規定があるわけではないが、結論的には一般に認められています。
この「責任を負うべき範囲」つまり「損害賠償を負うべき範囲」は、契約が有効に成立したなら得られたであろう利益(履行利益)ではなく、買主がその契約を有効なものと信じたために生じた損害(信頼利益)に限られると解されています。
例えば、目的物件の検分に要した費用、代金支払いのため受けた融資金の利息等がその例です。
少し判りづらいのですが、契約前に目的物件が存在しないのですから、契約は無効(不成立)となります。
しかし、条件によっては、売主に損害賠償責任が発生するという事です。
2 債務不履行
(1)債務不履行の意義・種類
債務不履行とは、債務者が正当な理由がないのに債務の本旨に従った債務の履行をしないことをいう(民法第415条)。「債務の本旨」とは、債務として予定されている本来の趣旨のことであり、また「履行」とは、債務者が債務の内容を実現することをいう。
債務不履行に基づき損害賠償請求権が発生するためには、その不履行が債務者に帰責事由があること、すなわち債務者に「故意」または「過失」があることが必要です。
なお、債務者は、債務を負担して履行しなければならない立場にいる以上、債務者が債務不履行の責任を免れるためには、その不履行が自己の責に帰すべき事由に基づくものではないことを立証(証明)しなければならないと解されています。
債務不履行には、履行遅滞、履行不能、不完全履行の3種類の態様がありますが、宅地建物の取引において不完全履行の問題の多くは担保責任の問題となるため、履行遅滞と履行不能が実務上重要です。
①履行遅滞
履行遅滞とは、履行が可能であるにもかかわらず、履行期が過ぎても履行をしないことをいう。
例えば、建物の売主が約定の引渡期日に引渡しをしない、というのがその例です。
債務者がその責によって履行遅滞に陥ると、債務者は債務名義(※)を得て債務者の財産に強制執行を行うことができます。また、損害賠償の請求を行うこと、また一定の手続きをしたうえで契約の解除の手段をとることができます。
※債務名義:強制執行により実現されることが予定される請求権の存在、範囲、債権者、債務者を表示した公の文書
②履行不能
履行不能とは、債権の成立後に履行が不能になったことをいいます。
例えば、建物の売買契約の締結後、引渡し前に売主の失火(過失)により、売買の目的物件を焼失させてしまい、引渡しができなくなった、というのがその例です。
債務者の責により履行不能となると、債権者は損害賠償の請求と契約の解除ができることになります。
③不完全履行
不完全履行とは、債務の履行として、とにかく一応の履行はなされたが、それが債務の本旨に従ったものでない、不完全な場合のことをいいます。
例えば、ある物件の調査を依頼された者が、ずさんな報告をしたため、依頼者が損害を被った、というのがその例です。
不完全履行の場合、もし追完(債務者があらためて完全な履行をすること)が可能であるときは、追完の請求ができます。さらに、債務者の責による不完全履行の場合には、その遅延による損害賠償の請求をすることができ、追完がそもそも不能であるときは、履行に代わる損害賠償請ができます。
もっとも、前述のとおり、宅地建物の売買のような特定物の売買の場合において、不完全な履行は、売主の担保責任の問題となります。
(2)損害賠償の請求
①損害賠償に関する原則
債務者は、責に帰すべき事由によって債務不履行に陥った債務者に対して、損害賠償の請求ができる。
損害賠償は、金銭によって支払われるのを原則とします(民法第417条)。
損害が発生したこと、および損害の額については、請求者の側で立証する必要があります。その請求できる範囲は、債務不履行と条件関係のあるすべての損害ではなく、(a)その債務不履行によって通常生ずべき損害、いわば債務不履と「相当因果関係」にある損害に限られます。
相当因果関係にある損害とは、原因・結果の関係―すなわち因果関係のうち、常識的にみて、「そのようなことがあれば、そのような結果になるだろう」と考えられる範囲の損害ということです。
なお、(b)特別の事情によって生じた損害は、当事者がその事情を予見し、または予見することができた場合のみ賠償の範囲に含まれる、と解されています。
※(a)一般人の感覚からして、常識的に考えられる損害 (b)その債務不履行においての特有の事情によって生じた損害
②損害賠償に関する特則
(ア)損害賠償額の予定
損害賠償額の予定とは、契約当事者が債務不履行の場合に備えて、あらかじめ賠償するべき額を定めておくことをいいます(民法第420条第1項本文)。
この予定をした場合には、請求者は相手方の債務不履行の事実を立証すれば、それだけで約定の賠償額を請求でき、損害を受けた額を立証する必要がありません。それにより、賠償の額をめぐる当事者間の紛争を未然に防止できることになり、また当事者の債務の履行を促進させる効用があるため、不動産の取引実務では広く行われています。
この「予定」がなされているときは、請求者が実際の損害額について予定額より大きいことを立証しても予定額を超えて請求することができかねる反面、実際の損害額が予定額より小さくても、請求者は予定額を請求できます。これに拘束されるのは当事者だけでなく、裁判所もこれを増減することができません。
ちなみに、損害賠償学額の予定は、履行の請求や解除権の行使とはべつの問題ですので、賠償額を定めておいても、履行の請求または契約の解除は自由にできます。
なお、損害賠償額の予定に類似する概念として「違約金」があります。
違約金は、契約締結の際、当事者間の債務不履行のときに、債務者が債権者に一定額の金銭を支払うことをあらかじめ約束する場合の、その金銭のことをいいます。この性質は当事者の意思によって決定されるものであり、例えば、損害賠償額の最低額の予定であったり、債務不履行があれば、とりあえず違約金を支払い、実際の損害は別途証明することにより請求できるという趣旨のものであったり、種々のものがあり得ますが、民法は、これを損が賠償額の予定と推定することにしています(民法第420条第3項)
(イ)金銭債務の特則
代金支払債務や賃料支払債務などのように、一定額の金銭の支払いを目的とする債務(金銭債務)の不履行については次の特則がある。
(a)金銭債務は履行不能になることはあり得ず、その不履行というのは、つねに履行遅滞である。たとえ金銭を用意できず支払うことができない、といってもそれは結局弁済期に弁済できないという「履行遅滞」になるだけである。
(b)金銭債務の遅滞においては、その原因が不可抗力によるものであることを証明しても賠償義務を免れることができず、また請求者は損害があったことの証明をすることも要しない(民法第419条第2項)
(c)賠償額はつねに一定の率、すなわち原則として法定利率(民事は年5%、商事は年6%)によって定める。もし、約定利率がそれより高いときはその約定利率による(民法第419条第1項)
(ウ)過失相殺
債務の不履行に関して、債権者の側にも過失があるときは、損害賠償の責任およびその金額を定めるにあたって斟酌する(民法418条)。
⇒そのような場合でも、債務者のみに全損害を負担させるというのでは、不公平だからです。
※斟酌(しんしゃく):相手の事情や心情をくみとること。また、くみとって手加減すること
今回は、「債務不履行」等の不動産の契約だと物件の引渡し・代金の支払などで紛争が考えられることについて記載してみました。
不動産の売買での不完全履行については、「売主の担保責任」になりますので、改めて説明いたします。
最後までお付き合いいただき、誠にありがとうございました。
われわれインテリジェンス・ネットワーク一同はお客様を第一に考え成長していきます。
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最近の話題(?)と言えば、「アベノミクス解散」の時に、議員の方々がバンザイのタイミングを間違えていたのには笑いました。
今回の解散の理由はよくわかりかねるのですが、
「消費税10%にする時期を延期する事=(イコール)アベノミクスはどうなのか?」
という批判を避けるための解散、という事でしょうか??
さて、今回は「契約をめぐる紛争」を書いていきますが、前回までの「売買契約の基本事項」と重なる部分もあるので、そちらを参照しながら記載していくようにいたします。
1 目的物件の不存在(原始的不能)
契約がその目的物件が現実に存在することを前提として締結された場合に、目的物件が例えば既に消失してしまっている時は、契約は無効(不成立)である。
⇒土地建物の売買は一般的には特定物の売買であり、契約が有効に成立するためには、目的が可能すなわち目的物件が存在することが必要だからです。
なお、10月9日の記事で記載いたしました、「危険負担」あるいは「債務不履行」(後述)は、契約が有効に成立していることを前提としているものですので、目的物件の不存在のときは問題となり得ません。従って、目的物件の不存在の場合、買主からの契約解除ということもあり得ません。
このように、契約に基づく効果は発生しないが、信義則上の効果として一定の法律関係が発生する場合があります。すなわち、目的物件の不存在(例えば、火災で滅失したこと)を買主が知らず(善意)、かつ、知らないことに過失がなく(無過失)、かつ、売主が目的物件の不存在について知らなかったことに過失がある場合には、売主に一種の損害賠償責任が生じます。
これは、「契約締結上の過失」と称され、民法に明文の規定があるわけではないが、結論的には一般に認められています。
この「責任を負うべき範囲」つまり「損害賠償を負うべき範囲」は、契約が有効に成立したなら得られたであろう利益(履行利益)ではなく、買主がその契約を有効なものと信じたために生じた損害(信頼利益)に限られると解されています。
例えば、目的物件の検分に要した費用、代金支払いのため受けた融資金の利息等がその例です。
少し判りづらいのですが、契約前に目的物件が存在しないのですから、契約は無効(不成立)となります。
しかし、条件によっては、売主に損害賠償責任が発生するという事です。
2 債務不履行
(1)債務不履行の意義・種類
債務不履行とは、債務者が正当な理由がないのに債務の本旨に従った債務の履行をしないことをいう(民法第415条)。「債務の本旨」とは、債務として予定されている本来の趣旨のことであり、また「履行」とは、債務者が債務の内容を実現することをいう。
債務不履行に基づき損害賠償請求権が発生するためには、その不履行が債務者に帰責事由があること、すなわち債務者に「故意」または「過失」があることが必要です。
なお、債務者は、債務を負担して履行しなければならない立場にいる以上、債務者が債務不履行の責任を免れるためには、その不履行が自己の責に帰すべき事由に基づくものではないことを立証(証明)しなければならないと解されています。
債務不履行には、履行遅滞、履行不能、不完全履行の3種類の態様がありますが、宅地建物の取引において不完全履行の問題の多くは担保責任の問題となるため、履行遅滞と履行不能が実務上重要です。
①履行遅滞
履行遅滞とは、履行が可能であるにもかかわらず、履行期が過ぎても履行をしないことをいう。
例えば、建物の売主が約定の引渡期日に引渡しをしない、というのがその例です。
債務者がその責によって履行遅滞に陥ると、債務者は債務名義(※)を得て債務者の財産に強制執行を行うことができます。また、損害賠償の請求を行うこと、また一定の手続きをしたうえで契約の解除の手段をとることができます。
※債務名義:強制執行により実現されることが予定される請求権の存在、範囲、債権者、債務者を表示した公の文書
②履行不能
履行不能とは、債権の成立後に履行が不能になったことをいいます。
例えば、建物の売買契約の締結後、引渡し前に売主の失火(過失)により、売買の目的物件を焼失させてしまい、引渡しができなくなった、というのがその例です。
債務者の責により履行不能となると、債権者は損害賠償の請求と契約の解除ができることになります。
③不完全履行
不完全履行とは、債務の履行として、とにかく一応の履行はなされたが、それが債務の本旨に従ったものでない、不完全な場合のことをいいます。
例えば、ある物件の調査を依頼された者が、ずさんな報告をしたため、依頼者が損害を被った、というのがその例です。
不完全履行の場合、もし追完(債務者があらためて完全な履行をすること)が可能であるときは、追完の請求ができます。さらに、債務者の責による不完全履行の場合には、その遅延による損害賠償の請求をすることができ、追完がそもそも不能であるときは、履行に代わる損害賠償請ができます。
もっとも、前述のとおり、宅地建物の売買のような特定物の売買の場合において、不完全な履行は、売主の担保責任の問題となります。
(2)損害賠償の請求
①損害賠償に関する原則
債務者は、責に帰すべき事由によって債務不履行に陥った債務者に対して、損害賠償の請求ができる。
損害賠償は、金銭によって支払われるのを原則とします(民法第417条)。
損害が発生したこと、および損害の額については、請求者の側で立証する必要があります。その請求できる範囲は、債務不履行と条件関係のあるすべての損害ではなく、(a)その債務不履行によって通常生ずべき損害、いわば債務不履と「相当因果関係」にある損害に限られます。
相当因果関係にある損害とは、原因・結果の関係―すなわち因果関係のうち、常識的にみて、「そのようなことがあれば、そのような結果になるだろう」と考えられる範囲の損害ということです。
なお、(b)特別の事情によって生じた損害は、当事者がその事情を予見し、または予見することができた場合のみ賠償の範囲に含まれる、と解されています。
※(a)一般人の感覚からして、常識的に考えられる損害 (b)その債務不履行においての特有の事情によって生じた損害
②損害賠償に関する特則
(ア)損害賠償額の予定
損害賠償額の予定とは、契約当事者が債務不履行の場合に備えて、あらかじめ賠償するべき額を定めておくことをいいます(民法第420条第1項本文)。
この予定をした場合には、請求者は相手方の債務不履行の事実を立証すれば、それだけで約定の賠償額を請求でき、損害を受けた額を立証する必要がありません。それにより、賠償の額をめぐる当事者間の紛争を未然に防止できることになり、また当事者の債務の履行を促進させる効用があるため、不動産の取引実務では広く行われています。
この「予定」がなされているときは、請求者が実際の損害額について予定額より大きいことを立証しても予定額を超えて請求することができかねる反面、実際の損害額が予定額より小さくても、請求者は予定額を請求できます。これに拘束されるのは当事者だけでなく、裁判所もこれを増減することができません。
ちなみに、損害賠償学額の予定は、履行の請求や解除権の行使とはべつの問題ですので、賠償額を定めておいても、履行の請求または契約の解除は自由にできます。
なお、損害賠償額の予定に類似する概念として「違約金」があります。
違約金は、契約締結の際、当事者間の債務不履行のときに、債務者が債権者に一定額の金銭を支払うことをあらかじめ約束する場合の、その金銭のことをいいます。この性質は当事者の意思によって決定されるものであり、例えば、損害賠償額の最低額の予定であったり、債務不履行があれば、とりあえず違約金を支払い、実際の損害は別途証明することにより請求できるという趣旨のものであったり、種々のものがあり得ますが、民法は、これを損が賠償額の予定と推定することにしています(民法第420条第3項)
(イ)金銭債務の特則
代金支払債務や賃料支払債務などのように、一定額の金銭の支払いを目的とする債務(金銭債務)の不履行については次の特則がある。
(a)金銭債務は履行不能になることはあり得ず、その不履行というのは、つねに履行遅滞である。たとえ金銭を用意できず支払うことができない、といってもそれは結局弁済期に弁済できないという「履行遅滞」になるだけである。
(b)金銭債務の遅滞においては、その原因が不可抗力によるものであることを証明しても賠償義務を免れることができず、また請求者は損害があったことの証明をすることも要しない(民法第419条第2項)
(c)賠償額はつねに一定の率、すなわち原則として法定利率(民事は年5%、商事は年6%)によって定める。もし、約定利率がそれより高いときはその約定利率による(民法第419条第1項)
(ウ)過失相殺
債務の不履行に関して、債権者の側にも過失があるときは、損害賠償の責任およびその金額を定めるにあたって斟酌する(民法418条)。
⇒そのような場合でも、債務者のみに全損害を負担させるというのでは、不公平だからです。
※斟酌(しんしゃく):相手の事情や心情をくみとること。また、くみとって手加減すること
今回は、「債務不履行」等の不動産の契約だと物件の引渡し・代金の支払などで紛争が考えられることについて記載してみました。
不動産の売買での不完全履行については、「売主の担保責任」になりますので、改めて説明いたします。
最後までお付き合いいただき、誠にありがとうございました。
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